借金再生録 #2|借金生活と自転車操業の入口

借金再生録

勝ちの錯覚

さて、60万円超の大万馬券を的中させてすっかり有頂天になり、寮の後輩に高級ステーキをおごったり大好きなガジェットを買い漁ったりした。
そして悪魔が囁いた。「三連単の爆発力はすごいだろ。これなら賭け金を少々上げてでも的中率を上げた方がいいと思わないかい?」
それまでは三連複(順不同に3着まで入る馬を3頭当てる)中心・数千円/レースという賭け方をしていた。
しかし、これを機に三連単中心・1.5万円/レースへ大幅な賭け額アップに切り替えた。
三連単は1着固定や2,3着固定など複雑な買い方ができるが、自分はあくまで三連複のように選んだ馬が3着以内に入れば当たる買い方を採用した。この買い方だと単純に三連複の6倍の点数が必要になる。
なぜこういう買い方をするかというと、人気馬が馬券に絡んでも3着で入れば大きくオッズが跳ね上がるからだ。
実際、その後しばらくは馬券が絶好調で毎週10万超えの黒字を計上していた。
その度に後輩におごっていたら、「弱小先輩、もう仕事辞めて競馬一本で食っていけるんじゃないですか?」とおだてられ、いよいよ万能感に満ちあふれて「いける」と錯覚するようになった。

借入の正当化

毎月の給料日に振り込まれる額は手取りで20万円強。毎日会社で心身ともにボロボロになった見返りとしては、競馬で得られる金額と比較すると馬鹿らしく思えてくるようになった。
よし、俺は競馬の稼ぎで一本立ちしてこの地獄から抜け出してやる!」と決意し、グリーンチャンネル(競馬専門の衛星放送)を契約して、JRA-VAN/TARGET(データ・予想ツール)を購入して腰を据えて競馬に取り組むようになった。
しかし幸運な日々は続くわけがない。やがて負けが込み始め、ジリジリと貯金が減っていき、遂に底を尽いた。
当時、PATの口座としてジャパンネットバンク(現:PayPay銀行)を利用していたが、トップページの「カードローン」という項目が目に入ってきた。
最初は「カードローンなんてとんでもない!」と考えていたが、カードローンの説明文を読み、「限度額100万円で利息18%か・・・。MAX100万円借りても年間の利息は18万円。1日に直したら500円。たかが昼飯代ぐらいじゃないか」と都合の良い解釈が頭を巡り始めた。ちなみにこの解釈には大きな勘違いが含まれている。この数字の怖さは次回で数字にして説明する。
当時の記憶が曖昧で、カードローンを新たに申し込んだのか最初から100万円の枠があったのかは覚えていないが、遂に禁断のカードローンに手を出してしまった。
さらにまずかったのは、銀行口座とPAT口座と同じなので、リアルなお札の移動がなくPCの画面上だけでお金を動かせたところである。キーボードに数字を打ち込み、マウスをクリックすれば簡単にPATにお金を移動させられるため、借金をしているという痛みが全く感じられないのだ。
その結果、2ヶ月ぐらいであっという間に借入上限額の100万円に達していた。

増枠の誘惑

日曜日の最終レースが終わり、遂に手元の財布の1,268円だけが全財産になった。「あー、やっぱりギャンブルで生計を立てるなんて夢物語や。明日から真面目に働こう!」とその夜は反省するのだが、翌月曜日にはもう週末のレース登録馬をチェックしていた。
反省は月曜日に溶け、金曜の馬柱で射幸心が再燃した。
すると、すぐにジャパンネットバンクからカードローン増枠のリクエストが来た。
「あなたの属性なら200万円まで借りられますよ」とのこと。これぞまさに地獄からの手紙である。
「いやいや、この申し出を受けてしまったら、いよいよ人間終わってまうわ」と最初は拒絶反応を示したが、やがて頭の中で都合の良い計算がぐるぐる駆け巡った。
週末が近づくにつれ、すっかり脳が先週の決意を記憶から消し去り、今週こそ儲けられるというポジティブ思考に転換していた。そして、拒んだはずの指が、結局「増枠申し込み」をクリックしていた——————。

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